いついて鉛筆を倒《さかさ》にして、ゴムでゴシゴシ消した。今日は少なくとも一生のうちで新しい生活にはいる記念の第一日である。小説ならば、編《パアト》が改まるところである。で、かれは頁《ページ》の裏を半分白いままにしておいて、次の頁から新《あら》たに書き始めた。
 四月二十五日、(弥勒《みろく》にて)……
 一|頁《ページ》ほど簡単に書き終わって、ついでに今日の費用《かかり》を数えてみた。新郷《しんごう》で買った天狗《てんぐ》煙草が十銭、途中の車代が三十銭、清心丹が五銭、学校で取った弁当が四銭五厘、合計四十九銭五厘、持って来た一円二十銭のうちから差引き七十銭五厘がまだ蝦蟇口《がまぐち》の中に残っていた。続いて今度ここに来るについての費用を計算してみた。
[#ここから5字下げ]
[#ここから横書き]
  25.0…………………………認印
  22.0…………………………名刺
   3.5…………………………歯磨および楊子
   8.5…………………………筆二本
  14.0…………………………硯
1,15.0…………………………帽子
1,75.0…………………………羽織
  30.0…………
前へ 次へ
全349ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング