て、めいめいに配った茶碗についで回った。
大君のめでたい誕生日は、茶話会《さわかい》では収まらなかった。小川屋に行って、ビールでも飲もうという話は誰からともなく出た。やがて教員たちはぞろぞろと田圃の中の料理屋に出かける。一番あとから校長が行った。小川屋の娘はきれいに髪を結《ゆ》って、見違えるように美しい顔をして、有り合わせの玉子焼きか何かでお膳《ぜん》を運んだ。一人前五十銭の会費に、有志からの寄付が五六円あった。それでビールは景気よく抜かれる。村長と校長とは愉快そうに今年の豊作などを話していると、若い連中は若い連中で検定試験や講習会の話などをした。大島さんがコップにビールをつごうとすると、女教員は手で蓋《ふた》をしてコップをわきにやった。「一杯ぐらい、女だって飲めなくては不自由ですな」と大島さんは元気に笑った。西日が暖かに縁側にさして、狭い庭には大輪の菊が白く黄いろく咲いていた。畑も田ももうたいてい収穫がすんで、向こうのまばらな森の陰からは枯草《かれぐさ》を燃《も》やす煙《けむり》がところどころにあがった。そばの街道を喇叭《らっぱ》の音がして、例の大越《おおごえ》がよいの乗合馬車が通
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