った。
その夜は学校にとまった。翌日は午後から雨になった。黄いろく色づき始めた野の楢林《ならばやし》から雨滴《あまだ》れがぽたぽた落ちる。寺に帰ってみると、障子がすっかりはりかえられて、室《へや》が明るくなっている。荻生さんが天長節の午後から来て、半日かかってせっせとはって行ったという。その友情に感激して、その後会った時に礼を言うと、「あまり黒くなっていたから……」と荻生さんはべつになんとも思っていない。「君は僕の留守に掃除はしてくれる、ご馳走は買っておいてくれる、障子ははりかえてくれる。まるで僕の細君みたようだね」と清三は笑った。和尚さんも、「荻生君はほんとうにこまめで親切でやさしい。女だと、それはいい細君になるんだッたが惜しいことをしました」こういってやっぱり笑った。
晴れた日には、農家の広場に唐箕《とうみ》が忙《せ》わしく回った。野からは刈り稲を満載《まんさい》した車がいく台となくやって来る。寒くならないうちに晩稲《おくて》の収穫《しゅうかく》をすましてしまいたい、蕎麦《そば》も取ってしまいたい、麦も蒔《ま》いてしまいたい。百姓はこう思ってみな一生懸命に働いた。十月の末から十
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