三
天長節には学校で式があった。学務委員やら村長やら土地の有志者やら生徒の父兄やらがぞろぞろ来た。勅語の箱を卓《テーブル》の上に飾って、菊の花の白いのと黄いろいのとを瓶《かめ》にさしてそのそばに置いた。女生徒の中にはメリンスの新しい晴れ衣を着て、海老茶《えびちゃ》色の袴《はかま》をはいたのもちらほら見えた。紋付《もんつ》きを着た男の生徒もあった。オルガンの音につれて、「君が代」と「今日のよき日」をうたう声が講堂の破れた硝子《がらす》をもれて聞こえた。それがすむと、先生たちが出口に立って紙に包んだ菓子を生徒に一人一人わけてやる。生徒はにこにこして、お時儀《じぎ》をしてそれを受け取った。ていねいに懐《ふところ》にしまうものもあれば、紙をあげて見るものもある。中には門のところでもうむしゃむしゃ食っている行儀のわるい子もあった。あとで教員|連《れん》は村長や学務委員といっしょに広い講堂にテーブルを集めて、役場から持って来た白の晒布《さらし》をその上に敷いて、人数だけの椅子をそのまわりに寄せた。餅菓子と煎餅とが菊の花瓶《かびん》の間に並べられる。小使は大きな薬罐《やかん》に茶を入れて持って来
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