最初の秋をかくさびしく暮らすを思へば、われらは不平など言ひてはをられぬはずに候。
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 手紙の五。(はがき)
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運命一たび君を屈せしむ。なんぞ君の永久に屈することあらん。君の必ずふるって立つの時あるを信じて疑はず。
  意気の子の一人さびしの夜の秋|木犀《もくせい》の香りしめりがちなる
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 これらの手紙をそろえて机の上においた。そして清三は考えた。自分の書いてやった返事と、その返事の友の心にひき起こしたこととを細かに引きくらべて考えてみた。さらに自己のまことの心とその手紙の上にあらわれた状態とのいかに離れているかを思った。美穂子のことからひいて雪子しげ子のことを頭に浮かべた。表面《うわべ》にあらわれたことだけで世の中は簡単に解釈されていく。打ち明けて心の底を語らなければ、――いや心の底をくわしく語っても、他人はその真相を容易に解さない。親しい友だちでもそうである。かれは痛切に孤独《こどく》を感じた。誰も知ってくれるもののない心の寂しさをひしと覚えた。凩《こがらし》が裏の林をドッと鳴《な》らした。

       二十
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