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 手紙の三。
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君の胸には何かがあるやうだ。少なくともこの間の返事で僕はさう解釈した。解釈したのが悪いと言はれてもこれもしかたがなしと存じ候。
加藤このごろ別号をつくりたりと申し居り候。未央生《みおうせい》の号を書きていまだ君のあたりを驚かさず候ふや。未央《みおう》と申せば、すでにご存じならん。未央は美穂に通ずるは言ふまでもなきことに候。「予にして加藤の二|妹《まい》のいづれを取らんやといへば、むしろしげ子を。温順にして情《じょう》に富めるしげ子を」をさなき教へ子を恋人にする小学教師のことなど思ひ出して微笑《ほほえみ》み申し候。また君の相変らぬ小さき矜持《ほこり》をも思ひ出し候。
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 手紙の四。
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久しぶりで快談一日、昨年の冬ごろのことを思ひ出し候。
あの日は遅くなりしことと存じ候。君の心のなかばをばわれ解したりと言ひてもよかるべしと存じ候。恋――それのみがライフにあらず。真に然《しか》り、真に然り、君の苦衷《くちゅう》察するにあまりあり。君のごとき志《こころざし》を抱いて、世に出でし
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