しつつ、この秋を寺籠《てらごも》りするさびしの友を思へ」と言ってやった。学校からの帰途には、路傍の尾花《おばな》に夕日が力弱くさして、蓼《たで》の花の白い小川に色ある雲がうつった。かれは独歩《どっぽ》の「むさし野」の印象をさらに新しく胸に感ぜざるを得なかった。寺の前の不動堂《ふどうどう》の高い縁側には子傅《こもり》の老婆がいつも三四人|集《たか》って、手拍子をとって子守唄を歌っている。そのころ裏の林は夕日にかがやいて、その最後の余照《よしょう》は山門の裏の白壁《しらかべ》の塀にあきらかに照った。
荻生さんはいつもやって来た。いっしょに町に出て、しるこを食うことなどもあった。「それは僕だってのんきにばかりしているわけではありませんさ。けれどいくら考えたってしかたがないですもの、成るようにしきゃならないんですもの」荻生さんは清三のつねに沈みがちなのを見て、こんなことを言った。荻生さんは清三のつねに悲しそうな顔をしているのを心配した。
後《のち》の月は明るかった。裏の林に野分の渡るのを聞きながら、庫裡の八畳の縁側に、和尚さんと酒を飲んだ。夜はもう寒かった。轡虫《くつわむし》の声もかれがれ
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