》ともなく他郷《たきょう》という感が激しく胸をついて起こった。かれも旅人、われも同じく他郷の人! こう思うと、涙がホロホロと頬《ほお》をつたって落ちた。

       二十一

 秋は日に日に深くなった。寺の境《さかい》にひょろ長い榛《はん》の林があって、その向こうの野の黄いろく熟した稲には、夕日が一しきり明るくさした。鴻《こう》の巣に通う県道には、薄暮《はくぼ》に近く、空車《からぐるま》の通る音がガラガラといつも高く聞こえる。そのころ機動演習にやって来た歩兵の群れや砲車の列や騎馬の列がぞろぞろと通った。林の角《かど》に歩兵が散兵線《さんぺいせん》を布《し》いていると思うと、バリバリと小銃の音が凄《すさ》まじく聞こえる。寺でも、庫裡《くり》と本堂に兵士が七八人も来て泊まった。裏の林には馬が二三十頭もつながれて、それに飲ませる水を入れた四斗桶がいくつとなく本堂の前の庭に並べられる。サアベルの音、靴《くつ》の音、馬のいななく声、にわかにあたりは騒々しくなった。夜は町の豪家の門《かど》に何中隊本部と書いた寒冷紗《かんれいしゃ》の布《ぬの》が白く闇に見えて、士官や曹長が剣を鳴らして出たりはい
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