かに、野には薄《すすき》の白い穂が風になびいた。ふと、路《みち》の角《かど》に来ると、大きな包みを背負《せお》って、古びた紺の脚絆《きゃはん》に、埃《ほこり》で白くなった草鞋《わらじ》をはいて、さもつかれはてたというふうの旅人が、ひょっくり向こうの路から出て来て、「羽生の町へはまだよほどありますか」と問うた。
「もう、じきです、向こうに見える森がそうです」
旅人はかれと並んで歩きながら、なおいろいろなことをきいた。これから川越を通って八王子のほうへ行くのだという。なんでも遠いところから商売をしながらやって来たものらしい。そのことばには東北地方の訛《なまり》があった。
「この近所に森という在郷《ざいごう》がありますか」
「知りませんな」
「では高木《たかき》というところは」
「聞いたようですけど……」
やはりよくは知らなかった。旅人は今夜は羽生の町の梅沢という旅店《りょてん》にとまるという。清三は町にはいるところで、旅店へ行く路を教えてやって、田圃《たんぼ》の横路を右に別れた。見ていると、旅人はさながら疲れた鳥がねぐらを求めるように、てくてくと歩いて町へはいって行った。何故《なにゆえ
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