。庭の金木犀《きんもくせい》は風につれてなつかしい匂いを古びた寺の室《へや》に送る。参詣者は朝からやってきて、駒下駄の音がカラコロと長い鋪石《しきいし》道に聞こえた。墓に詣《もう》ずる人々は、まず本堂に上がって如来様を拝み、庫裡に回って、そこに出してある火鉢で線香に火をつけ、草の茂った井戸から水を汲んで、手桶を下げて墓へ行った。寺では二三日前から日傭《ひよう》取りを入れて掃除をしておいたので、墓地はきれいになっていて、いつものように樒《しきみ》の枯葉や犬の糞《くそ》などが散らかっていなかった。参詣するもののうちには、町の豪家の美しい少女もいれば、島田に結った白粉のなかばはげた田舎娘もあった。清三はかみさんからもらった萩の餅に腹をふくらし、涼しい風に吹かれながら午睡《ひるね》をした。夢《ゆめ》うつつの中にも鐘の音、駒下駄《こまげた》の音、人の語り合う声などがたえず聞こえた。
結願《けちがん》の日から雨がしとしとと降った。さびしい今年の秋が来た。
かれのこのごろの日記には、こんなことが書いてある。
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十月一日。
去月《きょげつ》二十八日より不着《ふちゃく》の新聞今
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