ほんとうにだめですよ」
と、言って、大島さんはなみなみとついだ自分の麦酒《びいる》を一|呼吸《いき》に飲む。
「弱卒《じゃくそつ》は困りますな」
こう言って校長は自分のになみなみと注《つ》いだ。泡が山をなして溢《こぼ》れかけるので、あわてて口をつけて吸った。娘がそこにブッカキを丼《どんぶり》に入れて持って来た。みんなが一つずつ手でつまんで麦酒《びいる》の中に入れる。酒を飲まぬ関さんも大きいのを一つ取って、口の中にほおばる。やがて校長の顔も大島さんの顔もみごとに赤くなる。
「講習会なんてだめなものですな」
校長の気焔《きえん》がそろそろ出始めた。
大島さんがこれに相槌《あいづち》をうった。各小学校の評判や年功加俸《ねんこうかほう》の話などが出る。郡視学の融通《ゆうづう》のきかない失策談が一座を笑わせた。けれど清三にとっては、これらの物語は耳にも心にも遠かった。年齢《とし》が違うからとはいえ、こうした境遇にこうして安んじている人々の気が知れなかった。かれは将来の希望にのみ生きている快活な友だちと、これらの人たちとの間に横たわっている大きな溝《みぞ》を考えてみた。
「まごまごしていれ
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