して来るころには、午飯《ひるめし》の支度がもうできていた。赤い襷《たすき》をかけた家《うち》の娘が茶湯台《ちゃぶだい》を運んで来た。肴《さかな》はナマリブシの固い煮付けと胡瓜《きゅうり》もみと鶏卵にささげの汁とであった。しかし人々にとっては、これでも結構なご馳走であった。校長は洋服の上衣もチョッキもネクタイもすっかり取って汚れ目の見える肌襦袢《はだじゅばん》一つになって、さも心地のよさそうな様子であぐらをかいていたが、
「みんな平《たい》らに、あぐらをかきたまえ。関君、どうです、服で窮屈《きゅうくつ》にしていてはしかたがない」こう言って笑って、「私が一つビールを奢《おご》りましょう。たまには愉快に話すのもようござんすから」
 やがてビールが命ぜられる。
「姐《ねえ》さん、氷をブッカキにして持って来てくださいな」
 娘はかしこまって下りて行く。校長が関さんのコップにつごうとすると、かれは手でコップの蓋《ふた》をした。
「一杯飲みたまえ、一杯ぐらい飲んだってどうもなりやしないから」
「いいえ。もうほんとうにたくさんです。酒を飲むと、あとが苦しくって……」
 とコップをわきにやる。
「関君は
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