し》をわざと送り届けてよこした。中にも郁治から来たのが一番多かった。恋の悩みは片時《かたとき》もかれをして心を静かならしめることができなかった。郁治はある時は希望に輝き、ある時は絶望にもだえ、ある時は自己の心の影を追って、こうも思いああも思った。清三の心もそれにつれて動揺せざるを得なかった。自己の失恋の苦痛を包むためには、友の恋に対する同情の文句がおのずから誇大的にならざるを得なかった。――独りもだゆるの悲哀は美しきかな、君が思ひに泣かぬことはあらじ――わざと和文調に書いて、末に、「この子もと罪のきづなのわなは知らず迷うて来しを捕はれの鳩」という歌を書きなどした。浦和の学校にいる美穂子の写真が机の抽斗《ひきだ》しの奥にしまってあった。雪子といま一人きよ子という学校友だちと三人して撮《うつ》した手札形で、美穂子は腰かけて花を持っていた。それを雪子のアルバムからもらおうとした時、雪子は、「それはいけませんよ。変なふうに写っているんですもの」と言って容易にそれをくれると言わなかった。雪子は被皮《ひふ》を着て、物に驚いたような頓狂《とんきょう》な顔をしていた。それに引きかえて、美穂子は明るい眼
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