ることなどもあった。
その時はきっと二人して手拭いを下げて前の洗湯に行く。小川屋から例の娘が弁当をこしらえて持って来る。食事がすむと、親子は友だちのように睦《むつ》まじく話した。家の困る話なども出た。ありもせぬ財布から五十銭借りられて行くことなどもある。
七月にはいっても雨は続いて降った。晴れ間には日がかっと照って、鼠《ねずみ》色の雲の絶え間から碧《みどり》の空が見える。畑には里芋の葉が大きくなり、玉蜀黍《とうもろこし》の広葉がガサガサと風になびいた。熊谷の小島は一高の入学試験を受けに東京に出かけたが、時々絵葉書で状況を報じた。英語がむずかしかったことなどをも知らせて来た。郵便|脚夫《きゃくふ》は毎日雨にぬれて山門から本堂にやって来る。若い心にはどのようなことでもおもしろい種になるので、あっちこっちから葉書や手紙が三四通は必ず届いた。喝《かつ》!――と一字書いた端書《はがき》があるかと思うと、蕎麦屋《そばや》で酒を飲んで席上で書いた熊谷の友だちの連名の手紙などもある。石川からは、相変わらずの明星攻撃、文壇照魔鏡《ぶんだんしょうまきょう》という渋谷の詩人夫妻の私行をあばいた冊子《さっ
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