た乗合馬車がおりおり喇叭《らっぱ》を鳴らしてガラガラと通る。田舎娘が赤い蹴出《けだ》しを出して、メリンスの帯の後ろ姿を見せて番傘をさして通って行く。晴れた日には、番台を頭の上にのせて太鼓をたたいて行くあめ屋、夫婦づれで編笠《あみがさ》をかぶって脚絆《きゃはん》をつけて歩いて行くホウカイ節《ぶし》、七色の護謨風船《ごむふうせん》を飛ばして売って歩く爺《おやじ》、時には美しく着飾った近所の豪家の娘なども通った。県庁の役人が車を五六台並べて通って行った時には、先生も生徒もみんな授業をよそにして、その威勢のいいのにみとれていた。
清三の父親は、どうかすると、商売のつごうで、この近所まで来ることがある。縞《しま》の単衣《ひとえ》に古びた透綾《すきや》の夏羽織を着て、なかばはげた頭には帽子もかむらず、小使部屋からこっそりはいってきて、「清三はいましたか」と聞いた。初めはさすがにこうした父親を同僚に見られるのを恥ずかしく思ったが、のちにはなれて、それほどいやとも思わなくなった。近所に用事が残っているというので、清三は寺に帰るのをやめて、親子いっしょに煎餅蒲団《せんべいぶとん》にくるまって宿直室に寝
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