と眉とをはっきりと見せて、愛嬌《あいきょう》のある微笑《びしょう》を口元《くちもと》にたたえていた。清三は読書につかれた時など、おりおりそれを出して見る。雪子と美穂子とをくらべてみることもある。このごろでは雪子のことを考えることも多くなった。その時はきっと「なぜああしらじらしい、とりすましたふうをしているんだろう、いま少し打ち解けてみせてもよさそうなものだ」と思う。郁治の手紙は小さい文箱《ふばこ》にしまっておいた。
 前の土曜日には、久しぶりで行田に帰った。小畑が熊谷からやって来るという便《たより》があったが、運わるく日曜が激しい吹き降りなので、郁治と二人|樋《とい》から雨滴《あまだ》れが滝のように落ちる暗い窓の下で暮らした。
 次の土曜日には、羽生の小学校に朝から講習会があった。校長と大島と関と清三と四人して出かけることになる。大きな講堂には、近在の小学校の校長やら訓導やらが大勢集まって、浦和の師範から来た肥った赤いネクタイの教授が、児童心理学の初歩の講演をしたり、尋常一年生の実地教授をしてみせたりした。教員たちは数列に並んで鳴りを静めて謹聴《きんちょう》している。志多見《したみ》と
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