はいて海老茶《えびちゃ》のメリンスの風呂敷包みをかかえていた。その四辻には庚申塚《こうしんづか》が立っていた。この間郁治といっしょに弥勒《みろく》に行く時にも例のごとくその女に会った。
「どうしてああいう素振《そぶ》りをするのか僕にはわからんねえ」と清三が笑いながら言うと、「しっかりしなくっちゃいかんよ、君」と郁治は声をあげて笑った。その時、どこに勤めるのだろうという評判をしたが、馬車にいっしょに乗り合わせて、発戸《ほっと》にある井泉村《いずみむら》の小学校に勤める人だということがわかった。色の白い鼻のたかい十九ぐらいの女であった。
雨の盛んに降る時には、学校の宿直室に泊まることもあった。学校に出てから、もう三月にもなるのでだいぶ教師なれがして、郡視学に参観されても赤い顔をするような初心《うぶ》なところもとれ、年長の生徒にばかにされるようなこともなくなった。行田や熊谷の小学校には、校長と教員との間にずいぶんはげしい暗闘があるとかねて聞いていたが、弥勒のような田舎《いなか》の学校には、そうしたむずかしいこともなかった。師範出の杉田というのがいやにいばるのが癪《しゃく》にさわるが、自分は
前へ
次へ
全349ページ中116ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング