局に寄って、荻生君を誘って、角《かど》の菓子屋で餅菓子を買って来る。三度に一度は、「和尚《おしょう》さん、菓子はいかが」と庫裡《くり》に主僧を呼びに来る。清三の財布に金のない時には荻生君が出す。荻生君にもない時には、「和尚さんはなはだすみませんが、二三日のうちにおかえししますから、五十銭ほど貸してください」などと言って清三が借りる。不在に主僧がその室《へや》に行ってみると、竹の皮に食い余《あま》しの餅菓子が二つ三つ残って、それにいっぱいに蟻《あり》がたかっていることなどもあった。
 梅雨《つゆ》の間は二里の泥濘《どろ》の路《みち》が辛かった。風のある日には吹きさらしの平野《へいげん》のならい、糸のような雨が下から上に降って、新調の夏羽織も袴《はかま》もしどろにぬれた。のちにはたいてい時間を計って行って、十銭に負けてもらって乗合馬車に乗った。ある日、その女も同じ馬車に乗って発戸河岸《ほっとがし》の角《かど》まで行った。その女というのは、一月ほど前から、町の出《で》はずれの四辻《よつつじ》でよく出会った女で、やはり小学校に勤める女教員らしかった。廂髪《ひさしがみ》に菫色《すみれいろ》の袴を
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