いじ》へ行った人があったことなどを話した。メリンスの敷き物の上に鐘《かね》がのせられてあって、そのそばに、頭のはげた賓頭顱尊者《びんずるそんじゃ》があった。原は鐘をカンカンと鳴らしてみた。
雑誌記者から読経《どきょう》をしいられるので、和尚さんは隙《すき》をみて庫裡のほうへ逃《に》げて行ってしまった。酔った二人は木魚と鐘とをやけにたたいて笑った。
ドタドタとけたたましい音をさせて、やがて二人は廊下から庫裡へ行ってしまった。あとで、六畳にいる若い友だちは笑った。
「文学者なんていうものは存外のんきな無邪気なものだねえ」
清三はこういうと、
「想像していたのとはまるで違うね」
若い人々には、かねがねその名を聞いて想像していた文学者や雑誌記者がこうした子供らしい真似をしようとは思いもかけなかった。しかしこうしたことをする心持ちや生活は、かれらには十分にはわからぬながらもうらやましかった。
東京の客は一夜泊まって、翌日の正午、降りしきる雨をついて乗合馬車で久喜《くき》に向かって立った。袴《はかま》をぬらして清三が学校から帰って来て、火種《ひだね》をもらおうと庫裡にはいってみると、主僧
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