《こうり》などのあるそばで狭い猫の額のような庭に対して、なまりぶしの堅い煮付けでかれらは酒を飲んだり飯を食ったりした。
 帰りに、荻生君を郵便局に訪ねてみるということになったが、こんなに赤い顔で、町の大通りは歩けないというので、桑のしげった麦のなかば刈られた裏通りの田圃《たんぼ》を行った。荻生君は熊谷に行っていなかった。二人は引きかえして野を歩いた。小川には青い藻《も》が浮いて、小さな雑魚《ざこ》がスイスイ泳いでいた。
 寺に帰ると、座敷ではまだ酒を飲んでいた。騒ぐ声が嵐のように聞こえる。丈《せい》の高いほうが和尚さんの手を引っ張って、どこへかつれて行こうとする。洋服の原があとから押す。和尚さんはいつか僧衣《ころも》を着せられている。「まア、いいよ、いいよ、君らがそんなに望むなら、お経ぐらい読むさ、その代わり君らが木魚をたたかなくってはいかんぜ!」
 和尚さんも少なからず酔っていた。
「よし、よし、木魚はおれがたたく」
 と雑誌記者は言った。
 三人はよりつよられつして、足もと危く、長い廊下を本堂へとやって来る。庫裡《くり》からはかみさんと小僧とが顔を出して笑ってその酔態《すいたい》を
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