心持ちは四十近い人のようであった。養子としての淋しい心の煩悶《はんもん》をも思いやった。「なんのかのと言って、誰もみな死んでしまうんですな……それを考えると、ほんとうにつまらない」主僧は深く動かされたような調子で言った。
こんなことでその夜は一室の空気がなんとなく低い悲哀につつまれた。やがて主僧は庫裡《くり》に引き上げたが、清三と荻生君との話も理に落ちてしまって、いつものように快活に語ることができなかった。
二人は暗い洋燈《らんぷ》に対して久しく黙した。
翌日主僧は早く出かけた。
清三は大島孤月の病死と葬儀とについての記事をそれから毎日々々新聞紙上で見た。かれはその度《たび》ごとにいろいろな思いにうたれた。その人の作には感心してはおらぬが、出版者としての勢力が文壇に及ぼす関係などを想像してみたり、自分の崇拝《すうはい》している明星一派の不遇などをそれにくらべて考えてみたりした。時には、「とにかく不幸福《ふしあわせ》といっても死んでこうして新聞に書かれれば光栄である」などと考えて、音も香《か》もなく生まれて活《い》きて死んでいく普通の多数の人々の上をも思いやった。その間に雨が降っ
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