たか? 殿が?』
『きつとぢや、きつとぢや、すぐもどるほどに、のう……』
 二度目には母親がきいてゐるのなどはもはや頓着しないといふやうに、玩弄具をもてあそびなから、頻りに節をつけて歌でもうたふやうにして言ふのだつた。
『呉葉來て見や』
 かう窕子は呼んだ。
 呉葉も流石にそれには驚いたといふやうに、
『まア……まア、あこさまの聰明なこと……』
『だつてあんまりぢやないかねえ……。皆なきいて知つてゐるのだねえ――』窕子はたまらなく道綱が可愛相になつた。それはたとへ無意識であつたにしても、さういふ言葉を、いつとなく覺えて、それを歌か何ぞのやうに節をつけて眞似てゐるといふことは、何とも言へない一種の悲しさと心細さとを誘つた。その後兼家がやつて來た時、その話をして泣いたことを窕子は繰返した。
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かひもあらじと
知りながら
命あらばと
たのめ來し
言ばかりこそ
白波の
立ちも寄り來ば
問はまほしけれ
[#ここで字下げ終わり]
 かの女はその長い歌を例の巧みな假名で懷紙に書いて、それを丸るくして、向うにある厨子の上の段へと載せて置いた。二三日經つて、兼家がやつて來たけれども
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