ろいろなことでそれをまぎらせることも出來たであらう。此方からもさう深く思ひ込まずに、容易に男の胸にこの身を投げかけて行くことも出來たであらう。また呉葉の慰藉も、母の意見もそれをまぎれさせるに十分力があつたであらう。しかし今度の失望は、さうした生やさしい心の傷痍ではなかつた。窕子は既にあらゆる希望の憑むに足らないものであることを知つた。自分の眼の前に頼みにもし、力にもし、なぐさめにもして來たさまざまの幻影は、それは實際幻影で、到底手にすることの出來ないものであるといふことをかの女はつくづく感じた。青春の失はれて行く怨み、それも悲しかつたには相違ないが、しかしそこにはまだ慰めもあれば、縋るべきものもあつた。今度のやうに魂の底まで搖ぶられるやうなものではなかつた。
 呉葉が何か言ひかけても、窕子はたゞ低頭いてだまつてゐるやうなことが多かつた。
『本當に、もう少し氣を引立てゝ下さらなくつては……』
 呉葉はある日、兼家がやつて來て、一※[#「日+向」、第3水準1−85−25]ほどゐてそゝくさと歸つて行つたあとで言つた。
『そのやうに言はずにおいてお呉れ……。お前の心持はよくわかつてゐるから』

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