窕子は呉葉に言つた。
『何うも、いつもとは違ふのでね……。あの痛みが何うもわからない……。何かお中のうちに腫れたものでも出來てゐるのではないかと醫者は言うのなれど……』
『それだと困りますねえ』
呉葉も窕子の心を知つてゐるだけに、ひと事とは思へぬのだつた。
急に思ひ附いたやうに、
『腫物ならば私はちよつと行つて參じませう。大原野に、それによくきく地藏さまがございますから……。そこにさへお參りすれば、どんな難かしい腫物でも、三日が内に口があいてよくなると申しますから……』
『でも、本當に腫物だか何だかわからないのだけれど……』
『それでも、私、行つて參じませう。わけはありませぬから』
呉葉はさう言つて、桂川の土手に添つた長い路を遠く遠く歩いて行つた。大原野の春日の社のあるところからはもつと南で、昔、都が一度そこにあつたなどと言はれるところだつた。そこには竹むらの蔭に小さな地藏堂があつて、そこに大勢腫物のために參詣する人だちが來てゐた。
窕子は此頃はまた大きな壁見たいなものに打つかつたやうな氣がするのだつた。折角いくらか人間のことがわかつて來て、いくらか落附いた氣持になつてゐた
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