者にもかけて見たが、何うも本當のことはわからないといふ。何か憑物でもしたのではないかと言つてそれを落すために修驗者などを呼んで見たが、何うもそれでも驗が見えない。『なアにそんなに案ずるには及ばない。いまにぢきに治る……。お前が今日來るまでには起きるつもりでゐたのだが……』などと病人は手輕に言つてゐるのであるが、何うもいつもの風邪とは違つてゐるらしいので、窕子は急に慌て出して、早速殿のかゝりつけの醫者を招んで來て見せたり、寺でごま[#「ごま」に傍点]を焚いて貰ふやうにわざわざ使者を北山に出したりした。それから梅雨の節が來て、往つたり來たりするのも路が泥濘で困つたりしたが、しかも心配してやつて來る度に、『もう好い。今日は大分好い。北山のごま[#「ごま」に傍点]がきいたと見えて、氣分がさつぱりした……』などと言つてゐるに拘はらず、次第にその體のやつれて行くのを目にした。そればかりではなかつた、さみだれが晴れて京の町が日影にかゞやく頃になると、急に胸が強くさし込むやうになつて、左の脇腹のところが非常に痛んだ。『かをる! 氣の毒だが、またこゝを押して呉れ!』かう呼んでそこを強く強く押して貰つた。
前へ
次へ
全213ページ中197ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング