さうか――それぢや、母者よく知つてゐるんぢやな……。この身はそれと知らないからびつくりしちやつた。女子のゐるところぢやのう? 澤山々々女子がゐた。そしてこれがあの東三條殿の歌よみの人の子だなんて、皆なしてこの身をおもちやにするのだもの……しまひには睨めてやつた――』
『まア、この子が……』
『だつて、宮はにこにこして何もせられぬのだけども――その女房たちが人を何の彼のと言ふのだもの……』
 窕子の眼には大内裏の藤壺のさまがそれとはつきりと映つて見えるのだつた。女の歌人としてこの身がさうした社會にも認められてゐることが――その子の道綱の口からもさういふことがきかれるといふことが、かの女に一種の愉快を感じさせた。
『宮はそれから何うなされた――』
『宮のゐらるゝところまで伴れて行かれた……。そこでいろんなことをきかれた。……父上のこともきかれた。……母者のこともきかれた。そして母者に孝をつくさなければいけないと言はれた……』
『まア……』
『それから歸る時、また今度來よと言はれた……。母者、あそこはずゐぶんひろいところね。幾曲りいく曲りと曲るんだもの……。わからなくなるくらゐね……?』

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