…………』
窕子は末の宮の戀のことを頭に浮べずにはゐられなかつた。あの東國に走つた老尼の戀愛のことも不思議にもそれに引くらべて考へられた。
『それからずつともどつて來た?』
『え……』
道綱は可愛く點頭いて見せた。
『さういふところでは、しやんとしなけれはいけませぬよ。行儀をよくしなければ、でなくつては、殿上がつとまりはしないんだから……』
『大丈夫……』
『それから、一緒にゐる友だちと爭ひごとをしてはなりませぬよ』
『大丈夫……』
かう輕く言つてそして表の方へと出て行くのだつた。
その年は何方かと言へば窕子は幸福だつた。夏になってから宮から消息があつて――この間は道綱どのに逢へてうれしかつた。お身をまのあたり見たやうな氣がした。眉から額のところがよう似てゐる……。また今度逢はせていたゞきませう。禊の時には、棧敷が空いてゐるから來るなら來ては見ぬか。運好ければお目にかゝることが出來るかも知れない……などと書いてあつた。で、禊には母と道綱とを伴れて出かけて行つた。不幸にして宮には逢ふことは出來なかつたけれども、そのめづらしい儀式をまざまざと見ることが出來たのは嬉しかつた。
父母
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