に滿ち溢れて來るのを感じた。――何んなに遊蕩に身を持ち崩してゐたにしても、今でもその癖はやまずに、新らしい女が出來たりなどしてゐるのをはつきりと知つてはゐたにしても、それが深くこんがらかつて、何處までが憎だか、何處までが愛だか自分にもわからないやうな氣がした。否、さういふ女が他にあるがために、そのために一層不思議な愛情が漲つて行くのを感じた。口惜しさ、腹立しさ――それすらそこに愛となつて絡み合つてゐるやうな氣がした。
 ある日は道綱が話した。『だつて、へんな美しい人が來て、この身を伴れて行くのだもの……。そしてね、母者、その人が貴い女の人なの……局の人たちがその人のことを大騷ぎしてゐるの……。この身もびつくりしちやつた……。ずんずん奧の方へつれて行つて了ふんだもの……。母者、あの宮知つてゐるのかえ……。いろいろなものを呉れたよ。羊羹だの栗だの高つきにのせて……。それから母者にもよく言うてくれと言はれてぢや。あんな美しいけだかい人この身は見たことはない……。』
『そちは知らぬかのう……あの堀河の家にゐた宮――?』
『知らぬ――』
『さうかのう。知らぢやつたかのう? その宮ぢやらう?』

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