するよりもその方が好うございますねえ……? それで、子供は出來なかつたんでございませうか?』
『ひとりもなかつたさうでございます』
『まアねえ』窕子はまたその遠い昔の巴渦の中にその身を見出すといふやうにして、『それでもよくその男の人が京にとゞまつてゐずに、その美しい人を東國につれて行く氣になつたと思ひますね。誰か東國に知つてゐるものでもあつたのでせうね? さうでなくては、とても知れずに、そこまで行くことは出來ないでせうからね……。それにつけても、京では大變な騷ぎだつたつて言ひますからね。内裏はその話でしんとなつて了ふくらゐだつたさうですから。祖母がその話になるといつも眞劍になつて、その人だちは今でも生きてゐるだらうか。それとももう死んで了つただらうか。何處か深い山の中か何かで首を縊つてでもゐたのを誰も知らずにそのまゝ埋めて了つたのではないだらうかなんてよく言つてゐましたからねえ。祖母だつてその話に深い興味を持つたからこそさういつまでもその話をしたんですね。それにその建禮門につとめてゐた人にも、ちやんとした妻もあり子もあつたんださうですから。その妻が泣いて外を歩いてゐたのを祖母が見たこと
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