があるなんて言つてゐたことがありました。それを考へて見ても、戀といふことは不思議ですね。何ういふわけで、さういふことになつたか結局はわからないんですからね』かう言つた窕子の頭には、この梅雨ころに強いて御門に内裏に伴れて行かれた末の君のことだの、それを思ひ死に死んで行つた式部卿のことだの、ことにあの雨の夜の恐ろしかつた光景などがそれとはつきり浮んで來るのだつた。否、さうしたいろいろな戀愛のシインの中にかの女の戀のやうなものが雜つてゐるのもやつぱり不思議な心持をかの女に誘はずには置かなかつた。窕子はあたりを見廻すやうな心持の益々多くなつて行くのを感じた。またそれほど關係があるのでも何でもないけれども、もしその身とあの坊のあるじの僧と戀にでも落ちて、さういふ風に身をかくすやうな形にでもなつたら、それこそ何んなに世間で騷ぐことだらうなどと窕子は想像した。
 そんな話をしながら甜瓜などを食つたりしてゐる中に、老尼のおつとめもすんで、やがて莞爾しながら皆なのゐる方へと出て來た。別に話をするでもなく、たゞ靜かに珠數をつまさぐるやうにして坐つてるた。窕子は成るたけ見ないやうにしながらも、しかも、それを
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