よく互に出入りしたので、子供心にもそれを記憶してゐた。ところが、何でも武藏野の奧、それもずうつと秩父の方に寄つたところに用事があつて、そこに行く途中、日が暮れたので、無理に頼んである茅屋に泊めて貰つた。ところが、そこにゐた爺がその子供の時に父親のもとに出入りした下司の男によく似てゐる。非常によく似てゐる。何うも不思議だ……。顏もさうだが、聲がそつくりだ。『太郎は今に大きうなつてえらうなるの? 院の武士になるのう?』などと言つて頭を撫でたりした下司にそのまゝだ。しかしその彼が何うしてもこんなところにゐるとは思へない。他人のそら肖といふこともある。大方それだらう。滅多なことは言ひ出せないなどと思ひ返しても見たが、何うしてもそれに違ひない。それにはその時分子供心にも不思議なものがあると思つて見てゐた耳のところに出來てゐる小さな疣もそのまゝそこにある……。それでかれはたうとうそれを言ひ出した。ところがその爺は、おお、さうぢやつたか、あの時の太郎ぢやつたか? と言つて、ぽろ/\涙を流してその素生を打明けた。そしてそこにゐる婆は、その評判な四の君で、それ以來かれ等は此處に來て一生を送つたといふこと
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