ことをあきらめた。そればかりではない、間もなく六條の大殿がおかくれになり、その北の方も、平生四の君、四の君と可愛がつてゐられただけに、それを苦に、そのあとを追つて行かれた。時がまた經つて行つた。その御門さへ位をお讓りになつて二三年して崩御になつた。世の中も丸で遷り變つた。もはやさうした戀愛の話をするものもなければ記憶するものもなかつた。新しい時代の人達も同じいやうに苦しい戀をし、逢はれぬ苦しさを嘆き、思はぬ相手に添はなければならない涙を流してゐるにはゐるのだけれども、しかも過ぎ去つたことはもはやその心に響いては來なかつた。ところが、窕子にその話をしてきかせた祖母が死んでからまた五六年經つて、かの女が殿の許に來るやうになつた時分、ひよつくりひとつの物語が傳はつた。それは四の君がまだ生きてゐるといふことだつた。それもその一緒にゐる男は、その建禮門につとめてゐた同じ下司で、年はもはや六十に近く、女の方は五十を越してゐて、その時分にも睦まじく暮してゐるといふことだつた。そしてそれが何うしてわかつたかといふと、東國に下つたある侍の下司、その男の父親がその建禮門につとめてゐた下司と朋輩だつたので、
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