ばかりになつて身をかくした? ――下司の建禮門につとめてゐるものと身をかくした?』あとの一句は窕子も流石に聲を低くした。
『さやうでございます……。』
『まア、ねえ、思ひもかけぬこと――ほんに思ひもかけぬこと――』かの女の頭には、幼い頃祖母から聞いたその時の騷ぎやら噂やらが今更のやうにそこにはつきり浮び出すのだつた。
 祖母の話では、それは非常な騷ぎであつたといふ。名高い美しい姫で、其當時のあらゆる姫だちの中でも群を拔いてゐたといふ。また御門がその姫の美しいのを知つてゐられたばかりでなく、その女御として内裏に入つて行くのを指折り數へて待つて居られたので、何うすることも出來ないので非常に困つたといふ。否、そればかりではない、その姫は死んだか生きたかその行方がわからない。當時の御門の力で、または六條殿の力で、あらゆることをして搜したけれども、何うしてもわからない……。それで長い長い月日が經つた。世間ではいつかそのことを忘れた。その髮の長い黛の美しい姫のことを忘れた。六條殿でも、かうわからぬのでは、もうこの世に生きてゐるのではあるまい、地の下に穩かに眠つてゐるのであらう。かう思つてそれを搜す
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