書いて見せると、今度はそこにあつた檀紙に綺麗な手跡で窕子が昨日詠んだ歌を書いて見せたりした。話は容易に盡きようとはしなかつた。内裏で歌のうまい人達の話などもそこに出た。道綱がやがて松蟲を三疋も四疋も捕つて戻つて來た。つめたくなつた甜瓜の皮も厚く剥かれた。

         三六

『え?』
 びつくりしたやうな調子で窕子は聲を立てた。かの女はそれとも知らずにこの話をそこに持ち出した若い尼の顏をじつと見詰めた。すぐつゞけて、
『それは本當ですか?』
『本當でございますとも……。私などは詳しいことは存じませんけれども、今から五十年も前のことださうでございます。大變なことだつたさうでございます……』
『それではその六條どのの姫君と申すのは、現にそこにゐるその老尼さまだと仰しやるのでございますか?』
『さやうでございます』
 窕子の言葉につれて若い尼の言葉も丁寧に改められて行つた。
『まア――』
 窕子はかう言ふより他爲方がなかつた。かの女は佛間に向うむきに坐つて讀經してゐる老尼の方に目を遣らずにはゐられなかつた。
『まア、本當でございますかねえ? 六條の四の姫君、先々代の御門の女御に上がる
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