進してゐる生活と。一つは火花を散らしたやうでもすぐ消えてなくなつて了ふ生活と、一つはいつまでもいつまでも人の心に深い教へを殘して行く生活と……。窕子は自分等の平生目にしてゐる殿上人あたりの自墮落な生活をかうした靜かな學問にのみ精進して來た人だちの生活に比較して考ヘずにはゐられなかつた。
かういふ人だちは世間のことなどについては何も知らないのであつた。男女のことも、妻妾のことも、三つの心の巴渦のことも、御門が愛慾におぼれて末の君を無理に宮中に召されたことも、坊の町の細い巷路に結び燈臺が夜おそくまでついてゐてその角に牛車が待つてゐることも何も彼も……。そしてたゞ谷川の水の音を伴侶に深い高遠な學問にのみ心を注いでゐるのだつた。それが窕子には尊く感じられた。窕子はそのあるじの僧から法華經の一番中心を成してゐる思想を聞いたりなどした。
『さうしますと、何ういふことになるのでございませうか?』
と、その僧はにこやかに笑つて、さて少し考へるやうにして、
『歌で申して見ますと、つまりそのひとり手に巧まずに出て來るといふ心持――そこいらに歌は滿ちてゐますけれども、それをつかまうとすると、つかむことが
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