ぎたと言ふやうにソツと舌を出した。
『まア、あきれた……』
『だつて、さうですもの、好い法師さんですもの……』
『だつて舌を出さなくつたつて好いぢやないの?』
『御免なさい!』
 呉葉は自分のはしたなさを悔ゐるやうにして言つた。
『この山で幼い時をすごし、それから横川で行をなすつて、高野にも室生にも行つて、密教の方も十分になすつた方だからねえ……。このお山でもめづらしい法師さんだ――』窕子に取つても、異性がさういふ風に童貞をずつと守つて、一心に佛に奉仕してゐる形が、端麗な姿をしてゐるだけ、一層傷ましいやうな尊いやうな心持を誘ふのだつた。『あれで、あゝいふ風にして一生清く行ひすまして行かれるのかねえ!』時には窕子はこんなことを呉葉に言つたりした。
 ある日は道綱と二人で行つて、小半日もその坊で過した。あるじの方の僧は、却つてそれを名譽にして、何彼と道綱の機嫌を取つて、羊羹を高坏に載せて出したり、葛を溶いた湯を出したりして歡待した。無論それは東三條殿の愛兒であるといふ點もあるのだが、當代で評判な美しい女の歌人を歡迎する意味もあつたのだつた。
『我々もたまには歌にして見たいといふ考も起るので
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