すが、こればかりは別才だと見えまして、何うもうまい具合にまとまりません……』
『いゝえ、そんなことは――?』
『お上手な方がおつくりになりますと、それがすらすらと單純に出る。ちつともこだはりなしに――。何うもそれが眞似が出來ません。我々のやうな鈍根なものには何うも材料ばかりが多くなりまして、何を言つた歌だかわからなくなりますので……』
『いゝえ……』
『さうかと申して、それぢや材料が多すぎるのだからいけないのだからと思つて、今度はひとつのことをよまうとすると、それが短かすぎて歌にならない……。何業でも皆なさうでござるが、中でも歌はむづかしい……』
 こつちから般若心經の中心になつてゐる心持をきかうなどと思つて出かけて行くと、その先を越して、向うから歌の話を持ち出すといふ風なので、窕子は一層その僧に親しさを感ぜすにはゐられなかつた。時にさうして清くひとりで住んでゐる僧の上にそれに似た自分の生活を持つて行つてくつつけて、いろいろと深い感慨に耽ることもあつた。
『私などにはとても深いことはわかりませんけれども……それでも歌の心持を押しつめて參れば、やはり佛に近づく心が致しますので……』
 あ
前へ 次へ
全213ページ中151ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング