んだもののないこの身が悲しいではないか。
『ようわかつた、ようわかつた』
逆らつてはかへつていけぬと思つたので、母親はつとめて窕子の氣を迎へるやうにして言つて、
『その中には好いこともある……。さうわるいことばかりあるものではない……。道綱だつて、さういつまでも子供ではゐない。來々年に殿上することの出來る年ぢや……』
『そんなこと、あてになるものですか? 道綱のことなんか、少しでも考へてゐるんではないから……』
『そんなことはない、それは決してそんなことはない。それは安心しておいで! 殿だつて、そんなに人情のない方ではないのだから……』
母親が強く壓しつけるやうに言つた。
窕子にはしかしそれだけでは物足らなかつた。かの女は一つの戀愛と言つたやうなものにあくがれた。二つの心がひとつになつてそれが何ものにも動かされないやうになる戀! 何ものに打突つても決して決して打壞されない戀! 金剛不壞な戀! 十年逢はなくつても一生逢はなくつてもかはらない戀! さうしたものをかの女は常に眼の前に描いた。手を合せる佛の體の中にもそのまことの戀がかくされてあるやうな氣がした。
三〇
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