兄の長能の言つた言葉を窕子は思ひ起した。
 ――『だつて、それは無理だ。殿はさういふ質の人ぢやないんだもの……。殿はそんなことを女子に望んでゐはしないんだもの。殿に取つては、女子は尊いものではないんだもの……。それはおもちやだとは思つてはゐない。さういふ風に一段低くは見てはゐない。更に言ひ換へれば、女子は生活を面白くして呉れるものだくらゐに思うてゐる。だから、とてもお前の言ふやうなわけには行かない。さうかと言つて、それが薄情とか何とかいふのではない。殿だつてつまらなく女を傍によせつけてばかりはゐない……。あれでひとりでつまらなさうな顏をしてゐることもあるんです……。しかし、かういふ氣はあるな。窕子の考へ方と殿の考へ方は正反對で、とてもそれはひとつにはならない……。それが運がわりいといへばわりいのだらうが、たとへそれがひとつになつても、運が好いかわりいかわからない……。こいつは何うも一概には言へないな』――昨夜話してゐる中にこんな言葉が雜つてゐた。母親と兄の長能とかをると窕子と、この四人がおそくまで結燈臺を取卷いて四方山の話をした。中宮のことも出れば登子のことも出た。大納言が昔ひど
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