――』
『…………』
だまつてうつむいた窕子の眼からは涙がはらはらと流れた。
『困つた人ぢやのう?』
『母者……』窕子はあることを急に思ひ出したやうに、『母者はあの前の大納言どののつれてゐた人を見て何う思はれた?』
『あの向うの坊の方でお目にかゝつた人かや?』窕子の點頭くのを見て、『別に何うツていふことも思はせなかつたが?』
『此身は涙が出て、涙が出て……』
『何うしてぢや?』
『母者はあの女子のことをよう知らぬのかも知れない……』
『よう知りをる……美しいので名高い姫ぢやつた――』
『母者、この身はあの人があゝいふ病に取憑れたので、それで氣の毒だといふのではない……。それよりも、それよりも』急にたまらなくなつたやうに、『あの、あの大納言どのが……』
『大納言どのが何うしたのや?』
『あの體の大きい、心の大きい、その愛してゐた女子のためには、あゝして職もやめ、つとめもやめて、この山の中までついて來てゐるのを見て……ウ、ウ……この身は、この身は――』
涙が言葉を遮つた。
今度は母親がこまつて了つた。窕子の心がはつきりと飮み込めて來た。
暫くしてから、窕子はやつとその言葉をつぐとい
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