て皆なはてんでに自分の車に乘つて、またガタガタと山深く輾らせて行くのだつた。
二九
『だつて、お前、そんなことを考へたつて爲方がない……』
母親はつとめて窕子をなだめるやうにして言つた。
『母者の言ふことはそれはよくわかるのよ。何うせ、人間はあきらめ――自分のことでさへ自分で自由にならないのに、何うして他のことまで自分の思ふやうにすることが出來よう。それはよくわかつてゐる。しかし、さうだからと言つて、それを放つたらかして置くといふことは出來るでせうか。何うかしてそれをよくしたいと思ふから、それで苦しむのではないでせうか?』
『苦しむからいけないのぢや。苦しむことはない――』
『でも苦しまずにはゐられないのですもの……。あゝして道綱があそんでゐるのを見ても、すぐ苦しくなつて來るんですもの……』
『それがわるい癖ぢや……。それをやめねば、そちの病氣は治らぬと阿闍梨も言うたぢやないか? 何も思はぬ。何んなこともつらいとは思はぬ。眼の前を通り過ぎる雲ぢやと思うてゐる。でなければ、魔が一しきりついたのぢやと思うて知らぬ顏をしてをる……さうでなければ治らぬと言うたぢやないか
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