ぱりこの人生にもかういふ靜かな樂しさがあるからそれで生きてゐられるのではないか。こんなことを考へながら、窕子はじつとして立つてゐた。
 兄の長能は窕子の多情多恨な性質を知つてゐるので、傍に寄つて來て、
『何うかした?』
『いゝえ……』
『また、何か考へ出したのかと思つて……』
『いゝえ、たゞ、かうしてゐれば好いなアと思つたんです!……。かういふ生活もあるのに、何うして人間はあゝいふ爭ひの生活をつゞけてゐるのかと思つたんです!……。かういふ山の中に住んでゐる人だちは、さばさばとして何んなに好いだらうと思つたんですの!』
『だつて爲方がない……。さういふ生活があるんだから――』
『だから、それを亡くさうといふんぢやないの……。亡くしたいたつて、それは私の力では出來ないことですからねえ。たゞ、かういふ樂しい、自然のまゝの生活もあるのだと思つただけなの……』
 兄の長能は餘りに深く入りすぎて、また氣持でもわるくさせてはと思つてそのまゝ口を噤んで了つた。
『ぢやそろそろ行かうかね……。もうこれからは山で凉しいから』
『さうしませう』
 かをると呉葉とはそこらにあるものを片附けにかゝつた。
 やが
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