いと言ふので、持つて來た行厨をそのまゝそこで開くことにした。重ねた上の方の箱には、煮つけたものなどが入れられてあつて、下には今朝早くから起きて拵へた饅頭などが一杯に入れられてあつた。
『ひとついかゞ……』
 かをるはそれを呉葉にまで持つて行つて取らせた。
『うまく出來ましたね、姉者……』
 窕子は言つた。
『うまいどころではありませんでせうけども……。それでも、お中が減つては爲方がないから――』
『上手に出來てゐますよ』
 窕子は饅頭を一つ手に取つてそれを道綱にやつたりした。
 窕子にはかうした郊外の團欒がたまらなく樂しいやうな氣がした。これを平生の京の生活と比べたなら? 人が人と爭ひ、心が心と爭ひ、片時もその苦しさをやすめることが出來ないやうな生活と比べたなら? あのやうな無理な壓制が行はるゝやうな生活と比べたなら? またその身が不斷にやつてゐるやうな愼恚と嫉妬の生活と比べたなら? 大勢の妃を竝べて、美しい裳を着せて、それに酒の相手をさせたところでそれが何んだらう? また坊に行つて夜もすがら騷いであそび※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]つたとて、それが何だらう? やつ
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