てあるくらゐなもので、別にかの女に逢ひたいとも思つてゐなかつた。道綱はもはや七つになつたので、母のあとを追はず、おとなしく廊下で竹馬などをして遊んで暮した。
 少しくらゐ鳴らしても差支あるまいといふので、時には爪音を低くして登子と二人で箏の琴を彈いたりなどした。欝陶しい空合が絶えず眺められた。蝸牛が階段から廊下へとのぼつて來る丸い欄干に二つも三つも貼されてあつたりした。
 ある時登子は言つた。
『今はかうして世離れて、誰にも礙げられずに暮してゐることが出來るけれど……これもいつまでかうしてゐられることやら――』
『ほんとに――』
 窕子はかう言つて登子の方を見て、『何か、そんなことでも――』
『兎に角いつまでも此處にかうしてゐられないのは、わかつてゐるのよ。それが、この身の運命ですもの』
『…………』
『今日もそんなことをつくづく考へた……』
 窕子は何とも言へないのだつた。他から見たら、むしろ羨むべきことで、何うしてさういふ風に悲觀されるのだらうと思はれるくらゐなのだが、しかもその心持は窕子にはそれとはつきりわかるのだつた。そこに女の悲しみと苦しみとがあつた。かの女もさうした苦しみを
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