も呉葉にしても、この物の怪のすだく風雨の闇の夜を、いくら近くともとても歸つて行くことは出來ないといふので。――また登子の方にしても、さびしくてとても常葉と二人きりでは居られないからと言ふので、僕を使にやつてその旨ことはらせて、二人は一夜をそこに過すことにした。それから窕子はまた一しきり話に耽つて、太秦の蜂岡寺の丑の刻の鐘が風雨の中にきこえる頃まで起きてゐたが、たうとうそこに蚊帳を低く吊つて夜のものを竝べて眠つた。

         二三

 雨は猶ほ幾日も止まなかつた。芦や藺は高く繁り、それに雜つて名も知れない黄い花が咲いた。杜若の厚い緑葉には、白いまたは紫の花が咲き添つた。夜は螢が人の魂か何かのやうに一つ二つ青白いひかりをあたりに流して行つた。
 此方の裏門のところにはよく窕子の姿が見えた。小降になつた時を選んでは、かの女はいつもそつと隣の廢宅へ行くのだつた。かくれ家では多くは歌などを詠んだりして世離れて暮した。幸ひに誰もかれ等の靜かな生活の邪魔をしなかつた。兼家も物忌で館にばかり引込んでゐるらしかつた。たまには歌を入れた文箱などが屆けられては來るけれども、たゞ雨のわびしさが歌はれ
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