一番最後によこしたといふ手紙などを蒔繪の文箱の底から出して見せた。詩は當時にあつても名高い作者だつたので、墨色といひ、字のくばり方と言ひ、また詩の出來榮といひ、何ひとつそつがなかつた。歌も行成流の假名が見事だつた。
 手紙には別に大したことも書いてなかつた。逢ふつもりでゐた日に止むを得ない用事か出來て、その美しい眉に接することが出來ないのは悲しい。しかし悲しいことの多いのは――思ひのまゝにならないことの多いのは、この世の中の習ひだ。何もくやむことはない。心長く時の來るのを待つより他爲方がない……。さういふ意味のことがたゞ短かく書いてあるのだつた。しかし登子には、その思ひのまゝにならないといふことがたまらなく悲しかつた。宮はその生れこそ一の人の家柄ではなかつたけれども、御門とはすぐその上の兄君に當つてゐられたのであつた。母方の一族さへ時めいてゐたならば、御門よりも先きに位に即くべき資格を持つてゐられたのだつた。それに、宮は先帝に可愛がられたので、一時は今の御門の母方の人達が、何のぐらゐ眉を蹙めたかしれないのだつた。登子はその思ひのまゝにならないといふ言業の中にさうした事實を持つて行つてあ
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