つた。夕暮はいつか夜にならうとしてゐた。
『お前、そつと入つて行つて、きいて見て御覽……』
窕子は小聲で言つた。
呉葉は入つて行つた。廊下の小さな欄干に添つてその影はすぐ向うに消えた。
窕子はひとりじつと立盡した。雨がかなり強く音を立てゝ降つてゐる。さつきまで見えてるた卯の花の白さも、もはや夜の空氣の中にぼんやりと微かになつて了つた。窕子は何とも言へないさびしさと悲しさと心細さとに襲はれて、戀といふものの闇が、そこに恐ろしく悲しくひろげられて來たやうな氣がした。
雨の縱縞がその闇の中に微に線を引いてゐるのが覗かれた。
靜かな足音がした。呉葉がもどつて來た。
小聲で言つた。
『びつくりしてゐらつしやいました……』
『さうだらうね?』
『別におかわりにもなつてゐないやうでございます――』
『それで――』
そこに登子のおつきの常葉といふ中年の侍女が出て來た。
『何うぞ――』
『よろしいのですか?』
で、三つの影は音も立てずに、周圍を取卷いた小欄干に添つて靜かに動いて行つた。
そつと妻戸を明けて入つて行くと、そこは周圍の廊下を几帳でしきつたやうなところで、小さな結燈臺が既に明
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