つて遣つて来て見ると家の道具はもう大方持出して叩き売つて仕舞つたので、これと言つて金目なものは一つも無い。妓夫は怒るし、仕末に困つて、何うしようと思つて居ると、裏の馬小屋で、主人が居ないので、三日間食はずに、腹を減《へら》して居つた、栗毛の三歳が、物音を聞き付けて、一声高く嘶《いなゝ》いた。
「やア、まだ馬が居るア」
 と言つて、平気でそれを曳出《ひきだ》して、飯をも与ヘずに、妓夫に渡した。そして、彼はその馬を売つた残りの金を費《つか》ふべく、再び湯田中へと飛び出して行つたのである。
 其事が誰言ふとなく村の者に伝つて、孫(祖父の口癖に言つた)が馬を引張つて来て、又馬を引張つて行かれたとよと大評判の種となつた。
 それから、三年。かれが到頭《たうとう》家屋敷を抵当に取られて、忌々《いま/\》しさの余《あまり》に、その家に火を放ち、露顕して長野の監獄に捕へらるゝ迄其間の行為は、多くは暗黒と罪悪とばかりで、少しも改善の面影《おもかげ》を顕《あら》はさなかつたが、只《たゞ》一度……只一度次のやうな事があつた。
 それは何でも其家屋の抵当に入つてから後の事だ相だが、ある日かれは金を借ようと思つ
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