いふ其頃有名な兄分で、今では失敗して行衛《ゆくへ》知れずになつて居るが、それがよく重右衛門の初陣の夜の事を得意になつて人に話した。
「重右め、不具《かたは》だもんだで、姫つ子が何うしても承知しねえ、二|夜《ばん》、三|夜《ばん》、五|夜《ばん》ほど続けて行つて、姫つ子を幾人も変へて見たが、何奴《どいつ》も、此奴も厭だアつてぬかして言ふ事を聞かねえだ。朝になつて、あの田中の堤《どて》の上を茫然《ぼんやり》帰つて来ると、重右め、いつも浮かぬ顔をして待つて居る。咋夜《ゆうべ》は何うだつたつて……聞くと、頭ア振つて駄目だアと言ふ。それが余り幾夜も続くので、私も、はア、終《つひ》には気の毒になつて、重右だツて、人間だア。不具に生れたのは、自分《われ》が悪いのぢやねえ。それだのに、その不具の為めに、女を知る事が出来ねえとあつては、これア気の毒だア。一つ肌を抜いで世話をして遣らうと思つて、それから私の知つて居る女郎屋の嚊様《かゝさま》に行つてこれ/\だつて話して遣つただ。すると、流石《さすが》は商売人だで、訳なく承知して呉れて、重右め、其処に行つて泊る事に為つただ。明日の朝、何んな顔をして居るかと思
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