少女病
田山花袋
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)代々木《よよぎ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)昼間|出逢《であ》っても
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「奇+攴」、第3水準1−85−9、117−8]
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一
山手線の朝の七時二十分の上り汽車が、代々木《よよぎ》の電車停留場の崖下《がけした》を地響きさせて通るころ、千駄谷《せんだがや》の田畝《たんぼ》をてくてくと歩いていく男がある。この男の通らぬことはいかな日にもないので、雨の日には泥濘《でいねい》の深い田畝道《たんぼみち》に古い長靴《ながぐつ》を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀《あみだ》にかぶって塵埃《じんあい》を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、あなたお役所が遅《おそ》くなりますなどと春眠いぎたなき主人を揺り起こす軍人の細君もあるくらいだ。
この男の姿のこの田畝
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